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Channel: 西川隆範:シュタイナー教育随想
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シュタイナー華徳福育児(その5)

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5 大人の生活


 最後に、大人のことをお話します。まず第一に、自分がどういうふうに子どもの幸福を考えているか、どういうのがいい人生だと考えているかをはっきりさせていることが大切です。これがないと、いろんな意見に左右されて、不安定な考えになります。親が不安定な考えだと、子どもも不安になってきます。
 それから、子どもを理解するために子どもをよく見るといいのですが、冷静に見ることと、一段と深く見るために愛情を込めて見ることが大切です。主観的すぎる愛情は問題ですが、愛情があると深いところで理解できます。
 大人が普段の生活を安楽にしすぎていて、日常からだを使うことが少なくて意志が弱っていたり、将来への不安や悲観があると、子どもは落ち着きをなくします。大人が世間を中傷することが多い場合も、子どもは未来に向かって力強く生きていく気分を持てません。大人が内的な時間を大事にして、敬虔な気分を育成し、人生を肯定していると、子どもも「生きよう」と思えます。
 はじめに言ったように、子どもは親の行動を真似ます。真似をされるにふさわしい、伸び伸びした大人になっていることが必要です。大人は自然体験や芸術活動をとおして、自分の心の抑圧や知的な硬化をときほぐし、のびやかで、くつろいだ人間になっている必要があります。大人自身が知的に硬化していない、自由で創造的な人間である必要があります。
 育児には時間をとられますね。そういうなかで、短い時間でもいいから、本当に自分のしたいことをする時間を確保するのがいいと思います。子どもが七時に寝たあととか、幼稚園・保育園に行っているときとか、時間が空いたときに自分の趣味のことをして楽しんで、気持ちを開放するのはとてもいいことです。自分の心を豊かにするために自然を体験することもとてもいいですし、芸術的な体験もいいですね。そういうことをして自分が満足できると、ゆったりした暖かい気持ちになってきます。そういう気持ちが子どもにとってよいのはもちろんですし、余裕のある気持ちでいる人は判断も間違わなくなってくると思います。美しい時間という余裕があることが一番ですから、まず私たちは美しいことを楽しみましょう。ちょっと贅沢な時間を持つことです。
 親が思っていることを子どもは無意識に感じ取って、親の思いのような人間になることがあるそうです。へんな例ですが、とても勤勉でまじめにしている親が、内心ではサボりたいと思っている場合、それが子どもに伝わって、子どもがサボってしまうということがあるそうです。それを思うと、自分がどういう人間かというのが教育では一番大事な問題ですね。
 ただ、すべてが親のせいというわけではありません。子どもが持って生まれた方向性があります。それは親からの遺伝ではなく、その子の過去生に由来します。
 繰り返しになりますが、子どもは周囲の大人の言動を模倣することをとおして成長していきます。ですから大人が、自分の行為に現われる内面の思いをよいものにしておくことが大切です。そのためには、大人が高みの自己に向き合って、内的な平安を育てる時間を確保しているのが有効です。幼年期に大人の行為を手本にした結果、子どもの内面に良心が形成されていき、その良心が思春期以後、自分の行動の指針になります。

親子の不思議

 心が外界に対して持つ興味のあり方が父親から遺伝されます。知的な活発さ、想像力、イメージ豊かな表象を、子どもは母親から受け取ります。
 子どもは意志に関連する特性を父親から受け継ぎ、心の活動、知性の活動を母親から受け取るのです。
 男の子は、人間と外界との交流に関することを、父親から習得します。精神生活のありよう全体を、母親から受け継ぎます。
 女の子の場合、父親の特性は意志の本性から一段高められて、心のなかに現われます。父親においてより外的に現われていた特性が、娘においてはより内面化されて示されるのです。
 父親の性格の特性は娘の心のなかに生きつづけ、母親の心の特性、精神の活動は息子のなかに生きつづける、と言うことができます。
 母親の特性は息子において一段下降し、器官の能力となります。父親の特性は娘において一段高められ、内面化され、心魂化されて現われます。
 妻が夫をどう思っているかが、そのまま子どもに伝わります。たとえば、妻が夫に対して不満があると、その思いを子どもが共有して、父親を低く見ます。
 いまは、シングルの親も多くなっています。育児と生計の両立で、大変なご苦労と思います(仲間や親戚で助け合うような形を探ってほしいです)。苦労が多い分だけ、子どもが親孝行してくれると思います。 

秘訣

 家族が仲良くて和やかなのが最も大切です。人間は一生の間、幼児期の家庭の雰囲気の余韻が意識下に残ります。意識下の幸福感、幸せな幼年期の余韻が心の一番深くにあります。それが、この人生を生きるための一番の原動力です。生きるのは幸福だという根本の思いがあって、それが一生を生き抜く力になるのです。幼少のころを振り返ると、楽園のような根元的な幸福感があるので、大きくなってどんなにつらくても生き抜いていけます。
 このように、幼年期・少年期に体験した暖かさ・楽しさは、たとえ意識の表面からは消え去っても、生きていこうとする力として、深みから作用しつづけます。

 親は夜、今日一日のわが子の姿をありのままに思い浮かべてみます。自分の希望をこめずに、ただ思い浮かべます。
 そうするだけで、不思議なことに、子どもが順調になるという話をよく聞きます。
 また、 ご多忙で子どもに会う時間が少ない場合、昼休みなどにわが子のことを思い出すといいです。その思いが通じていく心的空間があります。通勤途中や休み時間に子どものことを思うと、思いが繋がります。その結果、短時間しか会わなくても関係が維持できます。
 小学生のころ、子どもの仕草が何かの職業に向いているように見えることがあるかもしれません。それは過去生の癖が残っているので、今回は別の仕事をするのが目的であるほうが多いと思います。過去生の続きを行なうべき運命の場合は、小さいときから天才的な才能を示すと思います。

 子どもをしつけるには、その子を信頼することから始めます。すると、子どもも親を信頼します。
 華徳福教育はいいけれど、社会は楽園ではないんだから、先のことを考えると、最初から苦労に慣れているほうがいい、という考え方があります。これは、お昼ご飯に皆よくないものを食べるんだから、朝食も悪いものを食べておくほうがいい、というような考え方です。朝食だけでも良いものを食べておけば、お昼が粗悪なものであっても、なんとか体は持ちこたえます。ですから、小さいうちだけも良い教育をすれば、それが基礎体力のようなものですから、その後もやっていけるはずです。

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